Pythonを使って微分積分を理解する!

「プログラミングの力を使って直感的に数学を理解できる」というコンセプトのPython×Mathシリーズ。好評既刊「Pythonで理解する統計解析の基礎」に続いて「微分積分の基礎」がシリーズに加わります。⁠Pythonスタートブック[増補改訂版]」の著者でもあり、本書の監修者でもある辻真吾氏に発売にあたって寄稿いただきました。

科学技術を支える微分積分

日本の江戸時代は、1600年ごろからはじまり約260年間続きました。それ以前の時代と比べ平和で安定したくらしのなかで、さまざまな文化や芸術が生まれました。江戸時代の中期17世紀の終わりは、日本の数学者関孝和が多くの業績を残した時期です。時を同じくしてヨーロッパでは、ニュートンとライプニッツが微分積分をどちらが先に確立したかで争っていました。誰がどのような形で生み出したにせよ、人類が微分積分という概念を活用し始めてから約300年、この間に微分積分は現代の科学技術を支える必要不可欠な道具になりました。物理学の発展は、微分積分を含む数学に支えられてきました。物理学の1つである電磁気学の体系なくしては、携帯電話もコンピュータも作れません。微分積分を知らなくても生きていけるかもしれませんが、現代の科学技術を利用するとき、微分積分とまったく関係しないということはほとんどないでしょう。

抽象的な概念をコンピュータによって視覚的にとらえる

みかんの個数とリンゴの個数を例に、足し算や引き算を学ぶことは簡単です。微分積分は、この足し算や引き算と何ら変わりません。微分は引き算、積分は足し算です。学ぶ者を困らせるのは、計算の対象がみかんとリンゴではなく関数だということでしょう。関数にはさまざまな種類があります。また、関数自体が抽象的な概念なので、どこが足し算でどこが引き算なのかがわかりにくくなってしまいます。関数が解になる微分方程式が出てくるとさらに難しくなります。

数学は高度になると抽象度が増します。抽象的な概念をそのまま理解できる人はほとんどいないでしょう。具体例や視覚的な解説があった方が、絶対にわかりやすいはずです。コンピュータを使うと複雑な関数のグラフを簡単に描くことができます。本書には、微分や積分の理解を助ける視覚的な具体例がたくさんあります。また、微分や積分の計算自体もコンピュータがやってくれます。簡単な微分の公式さえ忘れてしまっていても大丈夫です。微分方程式もコンピュータが解いてくれます。重要なことは本質的な概念を理解することです。コンピュータを使って数学を学習すれば、このことに集中できます。私は、数学教育はコンピュータを前提としたものにすべて作り替えるべきだと考えています。少し大それた意見ですが、本書を通じてこの思いを新たなものにしました。

数学の理解は新たな知識獲得につながる

微分は引き算、積分は足し算ですので、実は関数を考えなくても微分積分の概念は理解できます。実際に本書では、具体的なデータを使って微分積分の計算を解説している箇所もあります。このことが理解できると、今度は逆にデータを理解して活用するスキルの1つとして、微分や積分の概念が使えるようになります。データサイエンスの重要性は増すばかりです。数学の学習を通じて手に入れた考え方が、データから新たな知識を得るために利用できます。概念の本質的な理解は、汎用的な力を持っているのです。

高性能なコンピュータが、1人1台で使えるほど普及したのは、この20〜30年の出来事です。間違いなく人類史上もっとも恵まれた環境です。1人でも多くの方が、コンピュータの助けを借りて数学の理解を深めていただければ、まさに監修者冥利に尽きると言えます。

(本書の「シリーズ刊行によせて」より)

辻真吾(つじしんご)

1975年東京都生まれ。東京大学工学部計数工学科数理工学コース卒業。2000年3月大学院修士課程を修了後,創業間もないIT 系ベンチャー株式会社いい生活に入社し,技術担当の一人としてJava を使ったWeb アプリ開発に従事。その後,東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野にもどり,生命科学と情報科学の融合分野であるバイオインフォマティクスに関する研究で,2005 年に博士(工学)を取得。現在は,同研究センターの特任准教授として勤務する傍ら,「みんなのPython 勉強会」を主催するなど,Python の普及活動にも力を入れている。