2016年2月4日、Mozilla Foundationは「Firefox OS」のモバイル機器向けの提供とアプリストア「Mozilla Marketplace」の新規登録を終了し、今後はIoT分野に注力すると発表しました。この大転換は大きな驚きを業界に与えましたが、Firefox OSの知名度が低いこともあって、一般向けニュースとしては大きく報じられませんでした。そこでここでは、「そもそもFirefox OSとは何なのか?」についてかんたんに紹介します。
初期インターネットとNetscape
1990年代前半、インターネットが一般に公開されたころは、ほぼすべてのユーザーが「NCSA Mosaic」というブラウザを使っていました。テキストと画像を同時に表示できる初めてのブラウザであり、この時点ですでにブラウザの基本機能を完備していました。
開発者であるマーク・アンドリーセンは、1994年、Mosaicを発展させた「Netscape Navigator」を開発します。JavaScriptという言語を搭載することで、単にテキストと画像を表示するだけでなく、ブラウザ上で動的な処理を行うことを可能にし、初期のインターネット市場で人気を獲得しました。
その後、ブラウザだけでなくメールやニュースリーダー、オーサリングツールなども開発し、それらを統合してインターネットスイーツとして提供しました。
第一次ブラウザ戦争
しかし、Netscapeの栄華は長く続きませんでした。1995年、パソコン用OSで圧倒的なシェアを持つマイクロソフトが、独自ブラウザ「Internet Explorer」を開発して参戦したのです。バージョン1~3まではNetscapeの前に劣勢を強いられましたが、1997年のバージョン4で初めてOSに標準搭載され、Windows 98の高いシェアをそのまま自らのシェアにしてしまいます(同時期にMac OSにも標準搭載されました)。また、Windows 98には、メール&ニュースアプリ「Outlook Express」、オーサリングアプリ「FrontPage Express」、メッセージングアプリ「Messenger」も標準搭載されたため、Netscapeはインターネットスイーツとしてのシェアも奪われてしまいました。
その後、Netscapeの次期バージョン「Netscape Communicator」の迷走により、この戦い(第一次ブラウザ戦争:1995~2000年)はマイクロソフトの完全勝利に終わりました。
オープンソースブラウザFirefox
戦いに敗れたNetscapeはしばらく迷走を続けましたが、非営利団体Mozilla Foundationの元で開発が進められ、まったく新しいブラウザ「Mozilla Firefox」に生まれ変わります。
Firefoxは、これまでにない2つの特徴を持つブラウザでした。
- 完全オープンソース
- Mozilla Foundationにより全ソースコードが公開され、すべての開発がオープンソースコミュニティによって行われています。
- Web標準に準拠
- かつてのブラウザ戦争の反省から、W3Cが勧告しているWeb標準規格を積極的に採用するほか、開発した技術をオープンソースにしてWeb標準に提案しています。
Firefoxが登場した後も、デスクトップ向けブラウザシェア1位というInternet Explorerの地位は揺るぎませんでした。しかし、2000年代後半以降、Web標準への準拠がブラウザの重要な評価基準になり、オープンソース化の流れによって多くのブラウザが誕生し、新興ブラウザの1つである「Google Chrome」が全デバイスのブラウザシェアで1位になるなど、Firefoxの成果は着実にインターネット業界を変えていると言えるでしょう。
ブラウザ戦争はIoTに
ブラウザ戦争の舞台は、当初のパソコンからスマートフォン・タブレットなどのモバイル機器へと移っていきました。そして現在、IoT(Internet of Things)と呼ばれる通信機能を持った組み込み機器が、新たな戦場になっています。
Mozilla Foundationが開発した「Firefox OS」は、Firefoxの技術(Gecko/Gaia)をベースした組み込み機器向けOSで、Web技術だけで機器を動かすことを目標にしています。同様にWeb技術を活用したOSには、Googleが開発した「Chrome OS」や、かつて「Palm Pilot」で一世を風靡したPalmが開発した「webOS」(現在はLGが買収)があります。さらに、モバイル機器向けOSであるAndroidやiOS、LinuxベースのTizenなども参戦して、IoT市場のシェアを競っています。
「Firefox OS」の最大の特徴は、Firefoxと同様に「オープンソース」「Web標準」を開発のコンセプトにしていることです。現時点ではOS向けのWeb標準は整備されていませんが、Firefox OSのコミュニティによりさかんに開発が進められていて、その成果である「Web Telephony API」「Battery Status API」などがWeb標準として提案されています。
今後、機器メーカーが圧倒的に有利な組み込み機器市場で、Firefox OSがシェアを占めることができるかどうかはわかりません。しかし、IoT向けOSの技術向上に、Firefox OSの開発コミュニティが大きく貢献することは間違いないでしょう。