この記事を読むのに必要な時間:およそ 1 分
これからの10年をどう生きるか
20代,就職しこのままこの仕事が続けられるのかと悩むとき,30代,結婚し子供ができ生活環境について考えるとき,40代,ふとこの先の仕事や人生の最終地点に思いをはせるとき,それぞれのステージで人は少なからず仕事について,また自分の居場所について考えます。これからの10年をどう生きるか,10年後の自分を想像したとき,自分はどこで何をしていたいのか。
日本の経済,日本の豊かさというのは東京に集中している,そんなイメージがこれまでは社会通念としてありました。そして,大雑把に言ってしまえば,地方都市の多くは少なからずミニ東京を目指してきた(と思えるような発展のしかたをしてきた),という流れもありました。
しかし,ここ数年,若干状況は変わってきているように思います。東京に行けばなんとかなる,東京に行かなければ始まらない,といったかつての若者が抱いていたような焦燥感は希薄になったように思います。もちろん,さまざまなものが東京に集中している,という大きな構造はいまも変わっていません。ただ,これからは徐々に「脱・東京」(ローカルシフト)の時代になる,そんなうねりが感じられます。
その理由として,ひとつには,言うまでもなくインターネットの普及があります。インターネットには地方と都会の区別はありません。どこに住んでいても仕事ができる環境を構築することができるようになったことが大きな要因といえるでしょう。
人生を変える働き方
仕事の選択は人生のイベントの中でもかなり大きな部分をしめます。仕事,働き方を変えることで,生活からなにからがらりと変わってしまうこともあるでしょう。
せっかく人生のかなり長い時間を仕事とともに生きるのならば,気に入った場所で,気に入った仕事をしたい。ゴミゴミした都会ではなく,自然が近くに感じられる地方で働きたい。地元にもどって慣れ親しんだ景色のなかで過ごす時間もほしい。そんな考えが自然と生まれてくるのも不思議ではありません。
さまざま動機はあるかと思いますが,いま,自分の働く場所として,また暮らす場所として,地方に目を向けている人は確実に増えてきています。
地方での暮らしを考えたとき,仕事は重要なポイントになります。地方と都会では,やはり仕事の絶対量が違います。仕事がみつからず,地方への移住にいま一歩踏みきれないという人も多いかもしれません。しかし,仕事は自分たちでつくるという考え方もあります。ここ数年,「小商い」といった言葉が注目されてきたように,大きくはなくても十分に生きていけるだけの仕事,そして働き方は,注意深く探していけばきっと見つかるはずです。都会では,人や店があふれ埋もれてしまうようなことも,地方であれば成り立つといった事例も多く見受けられます。
もうひとつの居場所をみつける
「脱・東京」(ローカルシフト)という考えには,リスクヘッジという側面もあります。
『TURNS(Vol.11)』(第一プログレス刊)という雑誌のなかで,内田樹氏は次のように語っています。
「いま,都市で一人暮らしの賃労働生活を続けるのはいろいろな意味で『生物として弱い』状態です。地域社会の空洞化,災害に対する脆弱性,格差の拡大,雇用環境の劣化を背景に,病気になったり,失職したとたんに難民化するリスクを負っています。戦後,これほどまでにセーフティネットが弱くなった時期はありません。社会的立場の弱い人たちは,他者と相互支援のネットワークを形成することなしには生きてゆけないところまで追いつめられています」
こうしたリスクに対し,一人ひとりがリスクヘッジを考えていかなければいけない時代だと,内田氏は言います。新しいつながりや,働き方を求めて,地方に向かうということ(「脱・東京」という志向性)は,「生物として弱い」状態(個人主義)に対するリスクヘッジとして,コミュニティ形成(共同体主義)へと向かう過程なのかもしれません。東京と別の拠点を行き来している二拠点もしくは多拠点生活を送る人たちも,直感として都会だけに依存する危うさを,きっと感じているはずです。