2011年6月に刊行開始しました「生きる技術!叢書」の最新刊が、小林弘人著『メディア化する企業はなぜ強いのか?──フリー、シェア、ソーシャルで利益をあげる新常識』です。
著者の小林弘人さんは、インターネット黎明期に「日本版ワイアード」の編集人を務め、その後紙メディアのみならず「ギズモード・ジャパン」などのウェブメディアの立ち上げ、多くの企業メディア、著名人ブログの立ち上げにかかわった、メディア界の仕掛人。2009年に著した『新世紀メディア論──新聞・雑誌が死ぬ前に』では、「誰でもメディア時代」におけるインターネットを通じた情報発信の可能性を説き、旧来メディアである出版・新聞業界に衝撃を与えました。
また、監修・解説を担当した『フリー 〈無料〉からお金を生み出す新戦略』(クリス・アンダーソン著)、『シェア 〈共有〉からビジネスを生み出す新戦略』(レイチェル・ボッツマン&ルー・ロジャース著)では、これからのビジネスを考えるうえでのキー概念である「フリー」「シェア」の考え方を紹介し、大きな反響を呼んだことは記憶に新しいことと思います。さらに最近では、『パブリック 開かれたネットの価値を最大化せよ』(ジェフ・ジャービス著)でも監修・解説を担当されています。
その小林さんの満を持しての新作が、この『メディア化する企業はなぜ強いのか?』。インターネットの進化がもたらした環境下で、個人が情報発信することの意義を訴えた前著(曰く、「誰でもメディア宣言」)からうって変わり、今回は「企業向け誰でもメディア宣言」、すなわちビジネスの世界において、企業がメディア化することによってもたらされるポテンシャルについて語った内容。
「統制」から「移譲」へとコミュニケーションの本質が変わったいま(ソーシャルメディア上では情報はコントロールできない!)、これまでのようなマスメディアを通じた企業からの一方的な情報発信では顧客の心をつかむことはできません。企業がユーザーと良好な関係性を結ぶためには、企業自らが出版社や放送局のようにメディア化し、自分たちの主張、自社の製品・サービスの長所などをコンテンツ化して発信し、ユーザーとともにコミュニティを作ることが必要となってきます。それが本書の言うところの「メディア化戦略」です。
そこで重要なのは、〈フリー〉〈シェア〉〈オープン〉といった手法をふまえること。ツイッター、フェイスブックなどソーシャルメディアの本質を理解し、自社メディアをソーシャルメディアに適合させること。そのための具体的な方策が、本書では豊富な事例とともに詳細に語られています。さらに、そうした新しいマーケティング手法を駆使するだけでなく、最終的に顧客の心をつかむためには、担当者が熱意と情熱をもって発信することが必須であることも述べられています。成功事例として「東京R不動産」「マイクロソフト チャンネル9」「前田建設ファンタジー営業部」などが挙げられていますが、どれもみなその条件を満たしていることがわかります。
そうしたメディア化戦略の実践を通じてコミュニティを形成し、ユーザーと直接つながる「社会に接続された企業」こそが、次代の日本を活性化させると著者は説きます。新しい時代のコミュニケーションを模索することは、新しい組織のかたちについて考えること。ソーシャルメディア時代におけるビジネス界の「新常識」を、本書から読み取っていただけるとさいわいです。
本書の帯には、大前研一氏から「企業自らメディア化すべし! これはインターネットの黎明期から活躍する著者による新しいマーケティング論である。マーケッターだけではなく、経営者にも是非読んでもらいたい」という推薦文をいただいています。企業の経営者、広報・宣伝担当者、マーケティング担当者はもちろん、ソーシャルメディアを活用して一個人としてのスキルアップを目指す人にとっても、必読のテキストと言えるでしょう。