TiDB実践入門 ── RDBMSのスケール課題を解消するNewSQL

著者の一言

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MySQLは長年にわたり,信頼性の高いデータベースとして多くのエンジニアに支持されています。そのシンプルさ,性能,そしてオープンソースであることの魅力により,数々のプロジェクトに採用されてきました。筆者自身も数多くのMySQLサーバーを構築,運用してきたエンジニアの一人です。Webアプリケーションから基幹業務システムまで,さまざまな用途でMySQLの安定性を実感する一方で,データ量とアクセス数の増加に伴う運用課題も痛感してきました。MySQLの運用をもっと楽にしたい,性能を柔軟に増減させたい,障害対応を簡素化したいという思いを筆者なりに日々感じていました。

そんな中出会ったのがTiDBでした。筆者がTiDBの存在を知ったのは,TiDBのストレージ層で使用されているTiKVがCloud Native Computing Foundationによって,十分に成熟したプロジェクトであることを表すGraduated Projectとして,2020年に認定されたことがきっかけでした。もともとTiKV自体に技術的な興味を持っていたこともあり,このTiKVをストレージとして活用し,MySQL互換のインターフェースでデータにアクセスできるTiDBというソフトウェアが存在することを知りました。そして,その革新的な設計思想と内部アーキテクチャーについて調べ始めたことで,TiDBへの興味がどんどん膨らんでいきました。当時,分散システムとリレーショナルデータベースの良さを兼ね備えた非常に興味深いアーキテクチャーだと感じたことは,今でも鮮明に記憶しています。

TiDBを実際に触ってから今日まで,MySQLでの課題が解消していく喜びと,分散データベース特有のノウハウを学んでいく必要性を感じています。コミュニティ活動にも積極的に参加するようになり,イベント登壇や勉強会などでTiDBの魅力を伝える活動を始めました。振り返ってみると単なる技術的興味から始まり,知見の共有へと発展してきたTiDBとの関わりは,筆者自身のエンジニアとしての成長にも大きく貢献してくれたと思っています。このようなコミュニティ活動や情報発信を続ける中で,ご縁があってこのようなTiDBの書籍を執筆する機会をいただき,皆さんに本書をお届けするに至りました。

本書を通じて,TiDBの技術的な素晴らしさだけでなく,実際のデータベース運用における課題解決の可能性や将来性も含めた魅力をたくさんの人に伝えたいと思っています。そして読者の皆さんがTiDBを知ることで,データベース運用の新たな選択肢を得ていただければ幸いです。

TiDBの世界に飛び込む準備はできましたか? 本書を読み終わった時にはきっとTiDBの魅力を感じていただけるはずです。ぜひTiDBを実際に触ってみて,その魅力を体感してください。従来のデータベースとは異なる新しい可能性が見えてくることでしょう。

(⁠⁠はじめに」より)

著者プロフィール

長谷川誠(はせがわまこと)

インフラエンジニアとして豊富な経験を持ち,これまでに大規模なクラウド移行プロジェクトやオンプレミスとパブリッククラウドのハイブリッド環境構築など,さまざまなインフラ構築,運用を経験。特に可用性とスケーラビリティの高いシステム設計に注力し,多くの信頼性の高いインフラ環境を実現してきた。その豊富な経験を基に,クラウドネイティブ技術やモダナイゼーションにも精通し,さまざまなコミュニティ活動およびオープンソースへの貢献に積極的に取り組んでいる。また,国内外でのカンファレンス登壇も積極的に行っている。

2021年よりPingCAP日本法人において技術顧問を務め,TiDBユーザーコミュニティを立ち上げ,多くの技術情報を発信している。

共著書として『Kubernetesの知識地図』(技術評論社刊)を執筆。

趣味はベースの演奏であり,技術と音楽の双方に情熱を持つエンジニアとして活動中。


本多康夫(ほんだやすお)

データベース製品のコンサルタント,DBA,Webアプリケーションエンジニア,BI製品のテクニカルサポートエンジニアなど,開発から運用まで幅広い業務に携わる経験を持つ。2020年に始まったDatabase Internals輪読会をきっかけにTiDBを知り,その後2021年にPingCAP株式会社に入社,現在はTechnical Support EngineerとしてTiDBユーザーのサポートや資格試験,トレーニング資料の準備にあたる。また,データベースに関連する深い知識やこれまでの経験を生かし,国内におけるTiDBの普及活動を積極的に行っている。