著者の一言

45歳からでも英語ができるようになる

「いつか英語で本を読めるようになるぞ!」

一念発起して英語を一からやり直す。しかしモノにならない。

社会に出てから10回以上、そんな挫折を繰り返しました。

決意はいつだって本物でした。毎回、挑戦は「3日坊主」というほど短くなく、⁠3ヶ月坊主」くらいの時間をかけていました。参考書や英会話に少なからず投資もしました。

  • でも、まず文法の参考書が終わらない。
  • 学校で習った英語を忘れてしまっている。
  • 英語の本を読むなんて、夢のまた夢。

いくらの英語投資が無駄になったか、怖くて計算できませんでした。

洋書を読むのが「ひと月に1冊」から「数日で1冊」

そんな私が45歳になった2016年、これが人生最後と思って、自己流の英語学習法で挑戦をしました。

最後の挑戦は自分でも驚くほど成功しました。

英語で本を読めるようになっただけではありません。聞く、書く、話すという英語力全般が向上しました。この学習法を始めた頃の私の英語力はTOEICで600点くらいでした。大卒者の平均くらいでしょう。しかし、1年半後にはTOEICで960点を取り、英検1級にも合格することができました。TOEIC満点はほしい気もしましたが、資格試験はそれで「卒業」としました。自分の夢だった本を読む力を得たからです。

楽しく本を読めるようになると、英語力の向上は加速していきました。私はすべての読書記録をGoodreadsという世界最大の読書SNSに記録しています。人生ではじめて1冊丸ごと読んだのが2016年でしたが、翌年以降の記録はこうです。

  • 2016年=5冊
  • 2017年=58冊
  • 2018年=80冊
  • 2019年=103冊
  • 2020年=120冊
  • 2021年=130冊
  • 2022年=140冊

この本の執筆時点では、平均すると数日間で1冊を読んでいます。内容の内訳は、前半は学習用の読み物のような本が含まれていますが、最近はほぼ一般の新刊書籍です。1日100ページ以上を読めるようになりました。そして、SNSで洋書の紹介記事を週に何冊も書くようになりました。それを見ていたこの本の編集者が、私の英語力の向上速度に目をとめてくださり、本を書くことになりました。

10000時間の学習を挫折せずにやり抜くには

この6年間で、英語の学習には膨大な試行錯誤がありました。私は、当初は辞書を使って、ほとんど気合と根性で読んでいました。1冊目を読むのに1ヶ月かかりました。2冊目、3冊目と少しずつ楽になりましたが、限界を感じました。

「これでは長くは続かない」

そこから、メソッドを少しずつ改良してきました。英語の学習は、それ自体が目的であり、楽しいものでなければならないのです。

本書ではその最新のメソッドをくわしく紹介しますが、最初にお断りしなければいけないことがあります。それは、このメソッドにはそれなりの時間と努力を必要とするということです。⁠聞き流すだけで聞き取れるようになる」をうたい文句にする教材とは違います。

大学卒の平均学力から始めると、英語の普通の本(ベストセラーの小説や一般向けノンフィクション)を楽しめるようになるのに数千時間、年間100冊読めるレベルになるのに約10000時間が必要です。

「10000時間? 1000時間のまちがいではないの?」

そう思ったかもしれません。まちがっていません。10000時間です。

  • 1日1時間=1年で365時間
  • 1日3時間=1年で1095時間
  • 1日6時間=1年で2190時間
  • 1日9時間=1年で3285時間

という計算になります。私はこの6年間、1日6時間以上は英語を使っているのです。

(ここで「なんだ英語に強くなれるのはずっと先か」とこの本を捨てそうになったかもしれませんが、もう少しおつきあいください。この計算は正しいのですが、洋書1冊をすぐに読めるようにする裏ワザも紹介します)

机に座って参考書を広げ英語を「学ぶ」のはつらいです。1日1時間でも長期継続は難しい。だから、私はやっていません。日常生活で自然に英語を「使う」ことで上記の学習時間を確保することができました。

私の場合、英語で読書をしているのは平日で2~3時間。おもに通勤時間と就寝前に読んでいます。それ以外の時間は、生活を英語化しています。

  • スマホとPCを英語モードにする
  • 英語で検索する
  • ニュースを英語にする
  • 映画は英語で見る
  • 外国人とつながって話す
  • ノートを英語でとる
  • 英語で考え、独り言を言う

日本語でなければならない活動以外を、極力英語でおこないます。そうすると、数年で数千時間~10000時間は達成します。英語の生活習慣化のノウハウも、本文でもっとくわしくお話ししましょう。

この本では、⁠読む」だけでなく、⁠聞く」⁠話す」⁠書く」技能についても学習方法を示します。4つの技能は、深く結びついています。本を読んでいるだけでもある程度話せるようになりますが、⁠読む」「話す」を同時にやると学習は加速するからです。

だから、⁠本を読めるようになりたい」というだけでなく

  • 「字幕なしで英語の映画を楽しみたい」
  • 「英語のポッドキャストを楽しみたい」
  • 「英語の記事をブログから発信したい」
  • 「オンライン英会話で盛り上がりたい」

というような目的を持った方にも役立ちます。

「時間」「努力」の先にバイリンガルの住む魅惑の別世界が待っている

こうした「時間」「努力」の先には、バイリンガルの住む魅惑の別世界が待っています。

英語がすいすい読めるアドバンテージはたくさんありますが、私にとっては次のことが大きいです。

  • まわりのだれより早く海外の新刊を読める
  • 海外文学をオリジナルのまま楽しめる
  • WebやSNSからの情報収集力が倍増する

私は6年前と比べて信じられないくらい仕事の幅が広がりました。⁠英語ができる人」扱いになって、英語の仕事が増えました。英語の書評を書いたり、翻訳や通訳をしたり、外国人のつながりも広がりました。

インターネットには、日本語よりも何十倍も英語の情報が多いです。英語でしか見つからない情報がいっぱいあります。グローバルな視野が広がりました。英語ができるだけでなく、人生が豊かに変わりました。そして何よりも、英語を自由に使うこと自体が快感です。

「これまでいろんな学習法を試してきたけれど、うまくいかなかった」

そんな方に、私と同じ体験をしてもらいたいと思ってこの本を書きました。

この快感をあなたも共有できるようになれば幸いです。

橋本大也(はしもとだいや)

デジタルハリウッド大学教授兼メディアライブラリー館長。多摩大学大学院客員教授。早稲田情報技術研究所取締役。翻訳者。英検1級。

ビッグデータと人工知能の技術ベンチャー企業データセクション株式会社の創業者。同社を上場させた後,顧問に就任し,教育とITの領域でイノベーションを追求している。

著書に『情報考学 Web時代の羅針盤 213冊』(主婦と生活社),『データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人』(SBクリエイティブ),『情報力』(翔泳社),共著に『ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系』(実業之日本社),『電子書籍と出版─デジタル/ネットワーク化するメディア』(ポット出版)などがある。

洋書を紹介するブログを運営しており,『WIRED』日本版などのメディアに書評を寄稿している。