続・玩式草子 ―戯れせんとや生まれけん―

第58回Plamo-8.2の現状報告

2025年、明けましておめでとうございます。

昨年後半は、身辺多忙を言い訳に本連載をしばらくお休みさせていただいていましたが、年も改まり、そうそうサボっているわけにもいかなくなってきたので(苦笑⁠⁠、筆者がまとめ役をしているPlamo Linuxの状況や日々の戯れの由無よしなし事などを、あれこれ綴っていこうと思っていますので、本年もまったりとお付き合いいただければ幸いです。

今回は久しぶりの掲載なので、生存報告も兼ねて、Plamo Linuxの現状について紹介してみます。

Plamo-8.2の現状(その1)パッケージサイズの成長

本来、Plamo Linuxは年に一度、夏前くらいに新バージョンをリリースしていたものの、昨年はバタバタしていたこともあって、新版をリリースするタイミングを逃してしまいました。一方、そのような腑甲斐ふがい無いまとめ役とは対照的に(苦笑⁠⁠、メンテナの方々は各パッケージの更新や追加を着実に進めてくださり、FTPに公開しているパッケージのほとんどは最新版に追従できていると共に、Plamo-8.1のころは620ほどだったパッケージ数が、2024年末時点で745まで増加しています。

Plamo-8.1のリリースは2023年6月、そこから1年半ほどの成長を確認するために、まずは各カテゴリーごとのサイズの増減を調べてみました。

Plamo Linuxの「カテゴリー」は、大まかな用途ごとにパッケージを整理した概念で、Linuxシステムの動作に必須の⁠00_base⁠⁠、GUI環境が不要な基本ツールを収めた⁠01_minimum⁠からXfceデスクトップ環境をまとめた⁠10_xfce⁠⁠、LibreOfficeをまとめた⁠14_libreoffice⁠等、16の種類があります。

Plamo-8.1 Plamo-8.2_202312 増加率
00_base 531MB 843MB +58%
01_minimum 114MB 121MB +6%
02_devel 664MB 740MB +11%
03_libs 112MB 134MB +19%
04_x11 708MB 1100MB +55%
05_ext 98MB 104MB +6%
06_xapps 420MB 477MB +13%
07_multimedia 355MB 416MB +17%
08_daemons 135MB 142MB +5%
09_printings 86MB 95MB +11%
10_xfce 24MB 32MB +33%
11_lxqt 36MB 38MB +6%
12_mate 135MB 158MB +17%
13_tex 3.9GB 4.2GB +8%
14_libreoffice 230MB 242MB +5%
15_kernelsrc 158MB 192MB +22%
16_virtualization 8.5MB 6.3MB -26%
合計 7.6GB 8.9GB +17%

整理したところ、この1年半ほどの間でパッケージサイズの総計は1.3GBほど増え8.9GBに達していました。増加率で見ると全体では約17%、カテゴリーごとにはバラつきがあるものの、ほぼ1割前後ずつ増えているようです。

このようにまとめて見て「あれ?」と思ったのは00_baseの58%という増加率です。⁠00_base⁠は、Linuxシステムを動かすのに必須のパーツのみを集めた、いわば「枯れた」ソフトウェアを集めたカテゴリーで、少々バージョンが上がってもそれほどサイズは変らないはずです。

何が原因だろうと確認したところ、このカテゴリーに含まれるlinux_firmwareパッケージが8.1当時の287MBから559MBへ増えていました。58%というずいぶん大きな増加率はほぼこのパッケージの増分のようです。

$ ls -lh /tmp/8[12]/plamo/00_base/linux_firmware-* | \
     gawk '{gsub("/tmp/8[12]/plamo/[0-9].*/", "", $9); print $9, $5}'
 linux_firmware-20230515-noarch-B1.tzst 287M
 linux_firmware-20241210-noarch-B2.tzst 559M

firmwareは、CPU/GPUの動作修正用マイクロコードから、有線/無線のネットワークアダプタ、サウンドカード、高機能なマウス/キーボードといった入力機器など、さまざまな機器に必要なパーツで、Linuxに対応する機器が増えるほど、またそれらが高性能になるほど、増加していきます。昨今のLinuxの普及やそれに伴なって周辺機器メーカーもLinux用に積極的にfirmwareを提供するようになった結果がこの増加に表れているのでしょう。

対応する周辺機器が増えていくことはLinuxユーザとしては喜ばしい反面、Plamo Linuxのインストーラ担当としては、サイズを大きくしたくないインストーラと増え続けるfirmwareの兼ね合いに頭を悩ますところです(苦笑⁠⁠。

もうひとつ、55%の増加を示している04_x11では、新しく追加したQt6パッケージがほぼその増分を占めているようです。

$ ls -lh /tmp/82/plamo/04_x11/qt6-6.7.3-x86_64-B1.tzst |
    gawk '{gsub("/tmp/8[12]/plamo/[0-9].*/", "", $9); print $9, $5}'
qt6-6.7.3-x86_64-B1.tzst 332M

次節で紹介するLXQtデスクトップ環境は2.1で全面的にQt6に移行し、Qtベースのソフトウェアも随時Qt6への移行を進めているので、この増加も必然と考えるべきでしょう。

面白いと思ったのは、カーネルのソースコード(kernelsrcパッケージ)で、Plamo-8.1当時の6.1.30では158MBだったのが、6.12.6では192MBまで増大していました。

$ ls -lh /tmp/8[12]/plamo/15_kernelsrc/kernel* | \
    gawk '{gsub("/tmp/8[12]/plamo/[0-9].*/", "", $9); print $9, $5}'
kernelsrc-6.1.30-x86_64-B1.tzst 158M
kernelsrc-6.12.6-x86_64-B1.tzst 192M

単純計算で両者の差は34MBですが、パッケージはzstdで圧縮しているので、実際の差は150MBくらいになるでしょうか。1年半で150MBとすると年間100MBの増加となり、いまだにそれだけのペースで開発を続けているLinusさんを代表とするカーネル開発者たちの勤勉さに頭が下がります。

なお、唯一サイズが減少している⁠16_virtualization⁠カテゴリーですが、このカテゴリーに含まれているのはlxclxcfsの2つのパッケージのみで、lxcを5.0.2から6.0.3に更新する際、ビルドオプションが調整された結果、バイナリサイズが少し小さくなっただけで、何か大きな変更があったわけではありません。母数が小さい分、少しの変化が大きく見えているだけのようです。

Plamo-8.2の現状(その2)主要ソフトウェアのバージョン

さて、それではPlamo-8.2では主要なソフトウェアのバージョンはどうなっているのか、思いつくままに紹介してみます。

Xfce/LXQt/Mate

まずは目につきやすいデスクトップ環境から紹介しましょう。Plamo Linuxでは、メンテしきれないのでGNOMEやKDEといった大規模環境は採用しておらず、比較的小規模なXfceLXQtMATEの3種を提供しています。この1年半ほどの間に、これら3種ともアップデートされ、Xfceは4.18から4.20、LXQtは1.3から2.1、Mateは1.26から1.28に更新されています。

Xfce-4.2のスクリーンショット
Xfce-4.2のスクリーンショット
LXQt-2.1のスクリーンショット
LXQt-2.1のスクリーンショット
MATE-1.28のスクリーンショット
MATE-1.28のスクリーンショット

これらのうちLXQtはメジャー・バージョンアップで、基盤としているツールキットをQt5からQt6へ変更しています。

もっとも、いずれのデスクトップ環境も画面構成や操作性は旧版を踏襲しているので、意識してバージョンチェックしないと、違いには気づかないと思います。

Linuxカーネル

先にパッケージサイズを紹介した際はisoイメージにまとめていた6.12.6を用いたものの、FTPツリー上では既に6.12.8に更新しています。6.12系は新しいLTS(Long-Time Support)になる予定なので、2025年はこのシリーズで更新していくことになりそうです。また、メンテナの趣味で、NVIDIAが公開しているOpenGPUカーネルモジュール565.77も同梱しています。

$ uname -a
Linux pl82_b1 6.12.8-plamo64 #1 SMP PREEMPT_DYNAMIC Fri Jan  3 14:48:07 JST 2025 x86_64 x86_64 x86_64 GNU/Linux

$ sudo modinfo nvidia
filename:       /lib/modules/6.12.8-plamo64/extramodules/nvidia.ko.zst
import_ns:      DMA_BUF
alias:          char-major-195-*
version:        565.77
supported:      external
license:        Dual MIT/GPL
firmware:       nvidia/565.77/gsp_tu10x.bin
...

なおNVIDIAなグラボを使うためには、カーネルパッケージだけではなく、contrib/Nvidia/にあるnvidia_utils等も合わせてインストールする必要があります。

GCC/LLVM/Glibc

GCCは14.2.0、LLVMは18.1.8、Glibcは2.38を収録しています。

$ gcc -v
組み込み spec を使用しています。
COLLECT_GCC=gcc
..
サポートされている LTO 圧縮アルゴリズム: zlib zstd
gcc バージョン 14.2.0 (GCC)

$ clang -v
clang version 18.1.8
Target: x86_64-unknown-linux-gnu
Thread model: posix

$ /lib/ld-linux-x86-64.so.2  --version
ld.so (GNU libc) stable release version 2.38.
Copyright (C) 2023 Free Software Foundation, Inc.

ざっと確認したところ、GCCは14.2が最新なものの、LLVMは19.0、Glibcは2.40がリリースされているので、互換性等をチェックした上で更新が必要そうです。

Python/Perl/Ruby

Pythonは3.11.10、Perlは5.38.2、Rubyは3.3.6を収録しています。

$ python --version
Python 3.11.10

$ perl --version
This is perl 5, version 38, subversion 2 (v5.38.2) built for x86_64-linux-thread-multi
...

$ ruby --version
ruby 3.3.6 (2024-11-05 revision 75015d4c1f) [x86_64-linux]

こちらもPythonは3.12系、Perlは5.40系、Rubyも3.4系がそれぞれリリースされており、要更新とは思うものの、スクリプト系の言語は豊富なモジュールが便利な機能を提供する反面、バージョンアップ時にはそれらモジュール群も合わせて更新する必要があるため、アップデートには少々時間がかかりそうです。

Xorg/Mesa/Vulkan

Xorgは21.1.14、Mesaは24.3.1、Vulkanは1.3.290を収録しています。

$ xdpyinfo
name of display:    :0
version number:    11.0
vendor string:    The X.Org Foundation
vendor release number:    12101014
X.Org version: 21.1.14

$ glxinfo
name of display: :0
display: :0  screen: 0
...
OpenGL vendor string: Mesa
OpenGL renderer string: llvmpipe (LLVM 18.1.8, 256 bits)
OpenGL core profile version string: 4.5 (Core Profile) Mesa 24.3.1
OpenGL core profile shading language version string: 4.50
...

$ vulkaninfo
==========
VULKANINFO
==========

Vulkan Instance Version: 1.3.290
...

執筆時点で確認したところ、Xorgは21.1.15、Mesaは24.3.2、Vulkanは1.3.302が最新でした。ほぼ最新に追従できているXorgやMesaに比べ、Vulkanはやや古びて見えるものの、実のところVulkan(Vulkan_Headers)パッケージ自体はGPUを操作する機能の定義にすぎず、実際に使えるようになるには、MesaやAMD/NVIDIAが提供するVulkan用ドライバにその機能が実装される必要があります。現状のMesa-24.3.2ではVulkan-1.3.211レベル、NVIDIAが提供している565.77ドライバでもVulkan-1.3.289レベルなので、とりあえず問題は無さそうです。

もっとも、2024/12にVulkan-1.4が公式にリリースされたそうなので、次の更新は1.4シリーズからになるでしょう。

よく使うアプリケーション類

最後に、日常作業によく使うアプリケーションも見ておきましょう。

メンテナの加藤さんのご尽力で、firefox/thunderbirdはその基盤となるnss(Network Security Service⁠⁠、nspr(NetScape Portable Runtime)と共に最新版に追従しており、firefoxは133.0、thunderbirdは128.5になっています。

firefoxのabout画面
firefoxのabout画面

マルチメディア回りは阿部さんのご苦労でffmpegの新しいメジャー・リリースである7.1に対応し、ffmpegが提供するライブラリを利用するmpvvlcといったメディアプレイヤーも追従しています。

$ ffmpeg --version
ffmpeg version 7.1 Copyright (c) 2000-2024 the FFmpeg developers
  built with gcc 14.2.0 (GCC)
  configuration: --prefix=/usr --libdir=/usr/lib --mandir=/usr/share/man
  ...
  libavutil      59. 39.100 / 59. 39.100
  libavcodec     61. 19.100 / 61. 19.100
  libavformat    61.  7.100 / 61.  7.100
  ...

また、オフィス・スイートであるLibreOfficeは、公式に提供されているrpm版をPlamo用のtzst形式に変換して採用しているものの、新しい24.8系に追従し、日々の雑務作業に重宝しています。

LibreOffice 24.8.2
LibreOffice 24.8.2

今回は久しぶりということで、筆者がサボっている間も活発に更新が続いてきたPlamo Linuxの現状を紹介しました。

実のところ、⁠公式」リリースが無かったこの1年半の間も,数ヵ月に一度程度、その時点での最新パッケージをまとめたisoイメージを公開していたので、改めて「公式リリース」を名乗るのも面映おもはゆいところですが、別途紹介する予定のインストーラ回りの調整も一段落したので、そろそろ潮時かな、と思っているところです。

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