こんにちは、福田

EuroPython 2023について
EuroPythonは2002年[1]からヨーロッパで開催されているPythonのカンファレンスです。ヨーロッパでは各国のPyCon
今年は、初めてチェコのプラハでEuroPythonが開催されました。イベント概要は以下になります。
項目 | 内容 |
---|---|
URL | https:// |
日程 | チュートリアル:2023年7月17日 カンファレンス:2023年7月19日 スプリント:2023年7月22日 |
場所 | チェコ、プラハ |
会場 | チュートリアル/カンファレンス:The Prague Congress Centre - プラハ会議センター スプリント:Prague University of Economics and Business プラハ経済大学 |
参加費 | 420ユーロ |
主催 | EuroPython Society |

わたしはこの日程のうち、チュートリアルの1セッション、カンファレンスの3日間、そしてスプリントの1日に参加しました。
EuroPython参加・登壇までの道のり
EuroPythonへの参加を決意した理由は大きく2つあります。1つは憧れの開発者にお会いしたかったのと、もう1つは日本人でトークしている方がいることを知ったことです。
わたしは2020年ごろからPyCon JPを中心にトークをしています。自分が話す内容を調査する中で、世界中でさまざまなイベントがあることを知りました。EuroPythonもわたしが参考にしているトークがたくさんあるカンファレンスの1つです。もし、自分もそのイベントに参加できれば、参考にしたトークのスピーカーたちにお会いできるかもしれない!
お会いしたかった憧れの開発者は何人もいます。今回はお会いできなかったのですが、きっかけのひとりになったのは、自分のトークで紹介するAPIの元のPEP
実はわたしのEuroPython 2023でのトークは、PyCon JP 2022でのトークをアップデートしたものです。同じ内容のトークを、PyCon JP 2022では日本語で行いました[3] 。このトークについて、PyCon JP 2022のアフターパーティにて、Irit Katriel氏の同僚である Anthony Shaw氏が、当時のTwitterでIrit Katriel氏に紹介してくれました。そして、Irit Katriel氏が私のトークのスライドに

また日本からトークをしている方がいるというのを知ったのも、proposalを出してみよう!
EuroPython 2023のトークの募集
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EuroPython 初開催のチェコ・プラハ
わたしが行った2023年7月時点では、日本からチェコへの直行便はありませんでした。そのため、行きはフランクフルト経由、帰りはミュンヘン経由で移動しました。わたしは海外旅行に不慣れで、ヨーロッパは新婚旅行以来十数年ぶりです。行きの所要時間は18時間もあり、不慣れな乗り継ぎも事前に用意していた回答でどうにか乗り越え、ようやくチェコに到着しました。会場となったチェコ・

わたしは7月18日の午前中にプラハに到着しました。ホテルに荷物を置いて少し観光をし、その足でEuroPythonの会場へ向かいました。
わたしの発表
わたしのトークはカンファレンスの最終日である3日目
入り口にパネルがあり、上から2段目にわたしの紹介がありました。
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トークの内容は、Python 3.
- タイトル:Asyncio Evolved: Enhanced Exception Handling with TaskGroup in Python 3.
11 | EuroPython 2023 - 登壇資料:Asyncio Evolved: Enhanced Exception Handling with TaskGroup in Python 3.
11(EuroPython 2023) - Speaker Deck - Asyncio Evolved: Enhanced Exception Handling with TaskGroup in Python 3.
11 — Junya Fukuda - YouTube - 記事:Python 3.
11の新機能:asyncio. TaskGroupを使った予測可能でより安全な非同期処理 - gihyo. jp
Photo by Braulio Lara / CC BY-NC-SA 4.0
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トークが始まる前に、スタッフの方とコミュニケーションを取りながら、とても緊張している点、英語が得意じゃない点を事前にお伝えして挑みました。
慣れない英語でのプレゼンテーションと、練習不足
Photo by Braulio Lara / CC BY-NC-SA 4.0
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日本と異なる印象を受けたのは、asyncioのユーザーが多い点です。プレゼンテーションの冒頭でasyncioを使用している人に挙手してもらったところ、見渡す限りほぼ全員が手を挙げていました。トークタイトルから内容がasyncioであるとわかるため、興味を持っている人が聞きにきてくれたのかもしれません。しかし、これまで日本のカンファレンスで同じようにasyncioをテーマにトークをした経験と比べて、その差は大きかったです。トーク後に会話をした数人によれば、FastAPIでasyncioのAPIを利用しているケースが多いようでした。また、他の参加者がどのようにasyncioを活用しているのか非常に興味があります。次の機会には、用途についても詳しく聞いてみたいと考えています。
チュートリアル
ここからは、参加者として見たEuroPython 2023の模様をお届けします。チュートリアルはカンファレンスに先立ち行われるもので、会場もカンファレンスと同じです。1セッションは90分で、長いものは複数セッションにまたがり、2日間で約40ものセッションが行われました。
内容は、型やバリデーション、テストを中心としたロバストなPandasのコードを学ぶセッションや、WASMに関する議論を中心としたセッションなどさまざまでした。
- チュートリアル: Tutorials | EuroPython 2023
わたしが参加したのは、Beginner Conference Orientationというカンファレンス参加に慣れていない初心者向けのセッションです。
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このセッションでは、カンファレンスへの参加に向けた心構えや、コミュニケーションの取り方についてロールプレイを交えて説明がありました。新入社員向けの研修やビジネス講習みたいなものをイメージしていただくと近いかもしれません。このセッションの参加者のモチベーションは、カンファレンスを楽しみたいというものです。このセッションの中で、EuroPythonでは初対面の参加者たちが気軽にコミュニケーションを交わす雰囲気やメンタリティが形成されていることがわかりました。また、ロールプレイを通じて初めての顔見知りができたことはとても心強く、有意義なセッションでした。

カンファレンスでのトーク
今年のEuroPythonはプロポーザルが633あり、その中で142のトークが選ばれました。その中で参加できたトークをいくつか紹介します。
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1日目キーノート「Large Language Models: From Prototype to Production」

- タイトル:Large Language Models: From Prototype to Production | EuroPython 2023
- スピーカー:Ines Montani
- Large Language Models: From Prototype to Production — Ines Montani - YouTube
LLM時代における自然言語処理に関するトークをされていました。スピーカーのInes Montani氏は、AIと自然言語処理を専門とする開発者であり、自然言語処理のOSSのspaCy やアノテーションツールのProdigyを管理するExplosionの共同創業者でCEOです。
トークの中で自然言語処理プロジェクトをプロトタイプからプロダクションに移行させるための実践的なアプローチとして、銀行業務に関するデータセットを例に自然言語モデルと公開されているLLMのAPIを用いる手法を紹介されていました。自然言語処理はLLMと組み合わせることで、特定のドメインで新しい可能性を広げるのだなと感じました。
2日目キーノート「The Future of Microprocessors」
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- タイトル:The Future of Microprocessors | EuroPython 2023
- スピーカー:Sophie Wilson
- The Future of Microprocessors — Sophie Wilson - YouTube
タイトルの
氏はマイクロプロセッサーの歴史とともに歩まれてきた方ということもあって、トークの内容はとても濃密でした。歴史的経緯や、さまざまな課題
特に印象に残っているのは、マイクロプロセッサーの並列処理能力が強化されている一方で、それを最大限に活用するための新しいプログラミングアプローチや設計思考が提案されていない、と話をされていた点です。今後、新たなプログラミングアプローチが生まれると、さらに未来は広がるのだと感じました。
CPython Core Developer Panel
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- タイトル: CPython Core Developer Panel | EuroPython 2023
- スピーカー:Łukasz Langa, Petr Viktorin, Pablo Galindo Salgado, Mark Shannon, Steve Dower, Marta Gomez
- CPython Core Developer Panel - YouTube
CPythonのコア開発者が参加者の質問に答えるパネルディスカッションです。CPythonのコア開発者が多く参加している点、有名なライブラリのメンテナが参加している点などは、日本では見られない豪華なセッションでした。
向けられた質問は、GIL、型ヒントの未来、フォーマッターについて各自が思う事、などでした。特にフォーマッターに関しては、著名な開発者たちの間でも意見が分かれていることを知ると、彼らが少し身近に感じられました。
そのほかのトーク
ほかにもたくさんのトークがありました。アーカイブがYouTubeで公開されていますので、ぜひ気になるトークを見てみてください。
わたしの見たトーク、気になったトークもあわせてご参考にしてください。
- Async Robots — Radomir Dopieralski
- CircuitPythonのasyncioを利用したロボット制御に関するトーク。なぜCircuitPythonを選択されたのか、質問をしました。
- f"yeah!" - How we are supercharging f-strings in Python 3.
12 — Pablo Galindo Salgado, Marta Gomez - Python 3.
12で新しくなったfstringのPEP 701のAuthorふたりによる、新機能を紹介するトーク。テンポがよくとてもおもしろかったです。 - How we are making CPython faster. Past, present and future — Mark Shannon
- PyCon JP 2022のキーノートスピーカーであるMark Shannon氏によるCPythonの高速化に関するトーク。どうやってCPythonを高速化するのか、Bytecodeを交えてわかりやすく解説してくれます。
- Games of Life: generative art in Python — Łukasz Langa
- CPythonコア開発者のŁukasz Langa氏によるいくつかのアルゴリズムから画像やアニメーションを生成するトーク。PyScriptを使用しブラウザに表示される画像はユニークで、アイディア次第でよりおもしろいことができそうでした。
- Designing an HTTP client — Tom Christie
- Django REST frameworkやHTTPX、starlette を管理する会社
「Encode」 の Tom Christie氏によるHTTPクライアントの設計に関するトーク。わたしと同じ時間のトークだったので、泣く泣く後からビデオで見ました。
カンファレンス会場のあれこれ
会場の
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一番大きなホールの名前は、PlatinumスポンサーのJetBrains社にちなんだ
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コミュニケーションスペースには、コーヒーや紅茶、お水などの飲み物が常備され、時間になると軽食やランチ、おやつが用意されていました。
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セッションの合間やお昼の時間には人が集まり、とてもにぎわっていました。わたしもカンファレンス前日のチュートリアルで得たメンタリティで、積極的にコミュニケーションをとるように心がけました。
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
また、オンラインのコミュニケーションツールとして、DiscordでEuroPython 2023のサーバが用意されていました。各カンファレンスルームでのトークの紹介や、発表時のスライドを共有するチャンネル、ジョブボードがあり、どのチャンネルもにぎわっていました。
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EuroPython 2023の最終的な参加者は、1461人でした。過去のEuroPythonの記録
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スプリント
スプリントとは、開発者がそれぞれのテーマを持ち寄りその場で開発を行うミーティングです。
カンファレンスの最終日に
CPythonコントリビュートのはじめかた | gihyo.
海外カンファレンスに参加しよう
初の海外カンファレンスへの参加でしたが、非常に貴重な経験ができました。わたしは本当に英語が苦手で会話もままならないのですが、スタッフや参加者の方々が本当に優しくコミュニケーションをとってくれたおかげで、カンファレンスを心から楽しむことができました。
また渡航前の事前準備ではPyHackコミュニティのみなさまに、本当にお世話になりました。わたし一人では、会場に到着することもできなかったと思います。この場を借りてお礼をさせてください。EuroPython 2023の参加前、参加後の話をPodcastにも収録していただきました。ご興味のある方はこちらもぜひ聴いてみてください。
- #76 福田さんゲストに EuroPython参加に向けた 海外渡航の流れを深掘り | terapyon channel podcast
- #80 福田さんをゲストに EuroPython 2023 振り返りと 福田さんのトーク話 | terapyon channel podcast
海外カンファレンスに興味があっても、なかなか一歩を踏み出せない方もいらっしゃるかもしれません。そんな方には、まずはproposalを出してみる、というのがおすすめです。トークが採択されると、海の向こうにわたしの話を聞きたいと思ってくれる人がいる、という心強さが生まれ、それが行動の原動力になります